AIとの上手な付き合い方【チャレジョブセンター浦和】

 こんにちは。チャレジョブセンター浦和の町田です。
 
「 AIに〇〇書いてもらったんですけど、これでどうでしょうか?」。
最近、利用者さんから、また職員間でこんな会話をすることも多くなってきました。確かにAIが作った文章は立派に見えます。でも注意点はないでしょうか。
皆さんの周りではいかがでしょう。
AI、使っていますか?
去年の2月、利用者の皆さんと川口市のSKIPシティで「AIのアイ」という企画展を見に行きました。(※1)
その時は「AIって何ができるんだろう?ちょっと難しそうだな…」と思っていました。それが私は今、個人的な作業用にAIサービスを3つ課金して使っています。あれからほんの1年半ほどですが、だいぶAIが生活や仕事の中に入ってました。ずいぶんと状況が変わった印象があります。
 そこで今日はAIとの上手な付き合い方について、一緒に考えてみたいと思います。
 
冒頭
※画像はイメージです。以下同じです。  
 
AIは便利。でも、ちょっと待って
ここからは、膨大な量の文章を読み込んで言葉のパターンを学び、人と自然に対話できるようにした「大規模言語モデル」を中心に取り上げます。
このモデルに該当するChatGPTやCopilot、GeminiなどのAIツールは本当に便利ですよね。
ただ、マサチューセッツ工科大学 (MIT) メディアラボが主導した最近の研究では、興味深い一面も見えてきました。(※2)
この研究では、参加者をAI(この研究ではChatGPT)だけを使用するグループと、従来の検索エンジンを使用するグループと、自分の力だけでレポートを書いたグループに分けて、それぞれのグループの脳の活動を比較しました。結果はどうなったと思いますか?
 
 
おそらく多くの方々の予想通りでしょう。AIに頼りすぎたグループは脳の活動が明らかに弱くなっていたのです。特に、考えたり記憶したりする部分の働きが少なくなっていました。
 
 
脳は「考えてみる」ことで育つ
AIを使うと、脳は自分で考えたり工夫したりする努力をしなくて済みます。確かに楽なのですが、実はこれが問題です。 脳は、難しい問題に挑戦して「うーん、どうしよう…」と悩んでいるときに、新しい神経回路を作り、記憶を脳に刻み込んでいます。
筋トレ(筋力トレーニング)でも、ある程度の重量(≒負荷)をかけると筋肉が育つのと同様ですね。脳も「考える負荷」があると成長します。
 
研究では、AIがすぐに答えを出してくれると、この大切な「頑張る時間」が奪われ、脳が成長するチャンスを失ってしまう可能性があるとこの研究は示しています。つまり、楽に答えが手に入ることが、実は脳の学びを妨げることになるかもしれないのです。どっちを選んでもいいところも悪いところもあって、どうしたらいいか迷うところですね。
この研究では、脳が成長するチャンスを失ってしまうことを「認知的負債」と呼んでいます。つまり、今は楽にできても、将来「自分で考える力」が弱くなってしまうかもしれない、ということです。
 
 
実際、AIで書いた文章の内容を後から思い出そうとしても、83%の人がうまく説明できなかったそうです。面接で「この志望動機について、もう少し詳しく聞かせてください」と聞かれたとき、自分の言葉で答えられなかったら…。想像するだけでドキッとしますよね。
 
面接
 
いくつかの研究によると、誰かに説明しようと準備するだけで、勉強した内容がしっかり頭に残り、理解も深まることが分かっています。(※3)
でも、その「説明する」という大事な部分をAIにやってもらってしまうと、自分の脳を鍛えるチャンスを逃していることになりますよね。
 
AIの文章に足りないもの
もう一つ大切な発見がありました。AIが作った文章を、人間の先生とAIの評価システムにかけたところ、評価が大きく分かれたのです。 AIはAIが書いた文章を「きれいにまとまっている」と高得点をつけました。
しかし人間の先生は「その人が何を大切にしているかが分からない」、「個性が感じられない」と低い評価をしました。AIの文章は、確かにきれいで読みやすいのですが、「その人らしさ」が伝わってこないのです。
 
教授の評価
 
AIは使い方次第で、脳を育てることもできる
しかし、AIは脳の成長を妨げるだけではありません。研究で面白い発見もありました。
ずっと自分の力だけで文章を書いていた人が、初めてChatGPTを使ってみたとき、脳の活動が大きく活発化したのです。これは、自分の知識とAIの提案を組み合わせて考える作業が、脳にとって新しいチャレンジになり、脳を刺激したからだと考えられます。
 
AIは「敵」ではなく心強い「味方」
私は将棋が趣味ですが、プロ棋士では2007年に渡辺明竜王(当時)と「ボナンザ」というソフト(当時はAIではなくこう呼んでいました)
が対戦しました。2012年から2017年までは、電王戦というプロ棋士とAIが対決するシリーズが行われました。
当初AIは人間のプロ棋士と戦う相手でした。また当時は、「AIを研究に使う棋士」と「使わない(使うべきではない)という棋士」とで意見が分かれていました。互いのピリピリとしたムードが感じられていたものです。
しかし現在では、使う使わないではなく、いかに上手にプロ棋士がAIの思考を取り入れるかという段階に入っています。これは今回の研究結果とも重なっているように感じます。
 
 
就職活動とAI
では就職活動で考えてみましょう。採用担当者が見たいのは、果たして「正しい文章」だけでしょうか…? 私が採用担当者なら、その人らしい考え方、その人が経験から学んだこと、その人ならではの視点、そこからなぜこの会社で働きたいと思われたのか、どんなことをしたいと考えていらっしゃるか…、そんな「あなたらしさ」を知りたいと思うのです。
実は、企業側も就職活動でAIを使い始めていると聞きます。書類選考にAIを導入している会社もありますし、面接の予約システムにもAIが使われ始めているようです。
今後、この流れはさらに加速していくでしょう。 だからこそ、私たちは「AIを使いこなす力」と同時に「自分らしさを失わない力」の両方が必要になります。
 
おすすめの使い方
この研究では、こんな方法が良いと提案されています。
まず自分で考える。
  ↓
その後、AIに相談する。
 
例えば、志望動機を書くとき、
まず自分で「なぜこの会社で働きたいのか」をじっくり考える。
書き出してみる(箇条書きでもOK)。
それをもとに文章を作ってみる。
  ↓
できた文章をAIにかけて、「もっと分かりやすくするアドバイスをください」と聞く。
そのAIの提案を参考にしながら、自分の言葉で書き直す。
 
この順番が大切です。最初からAIに「〇〇という会社向けの志望動機を書いて」と頼むと、模範解答のようなきれいな文章が返ってきます。でもそのままでは「あなた」や「わたし」らしい志望動機にはなりません。
 
オリジナリティこそが強み
これからの時代、AIが普及すればするほど、「人間にしかできないこと」の価値が高まります。それは、あなた自身や私自身の経験してきたことや感じてきたこと、物の見方や考え方です。
当事業所でも、就職準備の訓練をしていますが、皆さん一人ひとりが違う強みを持っています。その強みは、AIには真似できません。AIを「頼りになるアドバイザー」や「カーナビのようなツール」として付き合いながら、自分らしさを作っていく―――例えばいろいろな人と話す、いろいろな会社を見る、時に自分について深く考えてみる、上手に働いている人を観察してみる、などなど…―――こうした実体験こそが、これからの就職活動で成功する大きなカギになるのだと思います。
 
 
就職活動の書類作成や面接練習で悩んだときは、ぜひ遠慮せずに学校の先生やハローワークの相談員さん、施設職員やその他周囲の方々に相談してみてください。
チャレジョブセンター浦和では、「AIに何て聞いたらいいか分からない」、「AIの答えをどう活かせばいいか迷っている」そんな相談も大歓迎です。
AIとの上手な付き合い方、そして何より「あなたらしさ」の見つけ方を一緒に考え、就職をサポートしていけたら…そう願っています。
 
 
 
(※1)
AIのアイ ~AIが見る世界、AIと創る世界(土曜通所)(前編)
 
AIのアイ ~AIが見る世界、AIと創る世界(土曜通所)(後編)
 
(※2)
Your Brain on ChatGPT: Accumulation of Cognitive Debt when Using an AI Assistant for Essay Writing Task
(ChatGPTを使うと脳はどうなる? ―レポート課題にAIを使ったときにたまる“認知的負債”)
 
(※3)
プロテジェ効果に関する研究
ロスコー, R. D., & チー, M. T. H. (2008).
「教えることで学ぶ効果:説明することと質問に答えることの役割. (教えることの科学)」, 36(4), 321-350.
人に教えることで自分の勉強もはかどる現象の「プロテジェ効果」を研究。「どう説明しようかな」と準備する段階で、自然と知識が整理され、理解が深まることが分かりました。
 
 
認知心理学に関する研究
ジョン・ネストイコら(2014年)
「後で教えると思って勉強すると、記憶力も理解力も上がる(記憶と認知)」, 42(7), 1038–1048.
「後で友達に教えるつもり」で勉強した学生と、「後でテストを受けるつもり」で勉強した学生を比較しました。その結果、教えるつもりで学んだグループの方が、内容をしっかり覚えていて、知識も整理されていたことが分かりました。
 
※参考用語
ファインマン・テクニック
電子(電気を運ぶ小さな粒)と光(光子)がどうやって出会い、ぶつかり、影響し合うかのふしぎを解き明かした天才物理学者、リチャード・ファインマンが実践していた「小学生にも分かるように説明できるまで学ぶ」という学習法。
 
 
自伝に『ご冗談でしょう、ファインマンさん(上・下)』ファインマン (著), 大貫 昌子 (翻訳) 岩波現代文庫があり、彼の学習への考え方を知ることができます。
 
(参考書籍)
『脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか 脳AI融合の最前線』池谷裕二(著) 扶桑社
 
『生成AIと脳~この二つのコラボで人生が変わる~』池谷裕二(著) 扶桑社新書
 
『AIにはない「思考力」の身につけ方 ことばの学びはなぜ大切なのか?』今井むつみ(著) ちくまQブックス(筑摩書房)
 
『AIの壁 人間の知性を問いなおす』養老孟司(著) PHP新書(PHP研究所)
 
 
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